相続に役立つ知識

遺言の本当の目的


遺言とは、財産、家族、供養などについて自分が死んだらこうしてほしいという思いを伝え、その思いのとおりに行ってもらうための手段をいいます。

 

メモ書き、ビデオレター、エンディングノートなどでも自分の思いを伝えることはできます。しかし、これらには法的な効果が認められないため、亡くなった方の最期の意思が実現される保証はないのです。

 

そこで、法律の後ろ盾のある「権利や義務を発生させたい」と考えるのなら、民法で決められた方式で遺言をしなければなりません。その方式とは、全部で7種類ありますが、世の中で実際に利用されているほとんどは、自筆証書遺言 と 公正証書遺言 の2種類です。

 

ところで、遺言のお話をすると・・・

 

『 遺言を残すほどたいした財産はない!』

『 うちは遺産争いするような家族じゃない! 』

 

といった答えが返ってくることがあります。

 

確かに遺言を活用すれば、相続トラブルを予防する大きな効果はありますが、それだけが遺言の目的ではありません

遺言書の作成は

自分の「死」を見つめることではなく

残される家族の「生」を思いやること

 

これこそが、遺言の本当の目的であると、私は考えています。

遺言が特に必要なケース


トラブルの起きやすい親族がいる場合や特殊な事情を抱えた家族がいる場合は、積極的に遺言を活用すべきです。

ここでは、遺言が特に重要な役割を担う場合の典型例を紹介します。

【ケース1】
夫婦の間に子供がいない場合(前提:夫の両親も他界)

夫が亡くなった場合、その財産は 「妻」と「夫の兄弟姉妹」が相続することになります。そこで、妻に全財産を譲りたいときは、その旨を遺言に残す必要があります。

今後、世話をしてくれる子供もなく一人寂しい思いをする妻のために、最後にできる愛情表現といえるかもしれません。

【ケース2】
別れた前妻との間に子供がいる場合

離婚した前妻との間の子供は、再婚しても実の子には変わりはありませんので、夫が亡くなれば、その財産は「現在の妻と子」と「前妻の子」で相続することになります。

しかし、みなさんの想像通り両者は感情的になりやすい関係で、遺産の話し合いも思うように進みません。

このような場合、それぞれの生活環境を考慮した遺言をしておくことにより、相続争いを未然に防ぐことができるのです。

【ケース3】
相続人以外の人に財産を譲りたい場合

長男の嫁や孫などは、原則として遺産を取得する権利はありません。

しかし、法律では相続人として認められない人であっても、どうにか財産を譲ってあげたいという事情もあるでしょう。(例:介護に尽力してくれた)

このような場合、遺贈(=遺言によって財産を贈ること)を検討してみるとよいでしょう。


【ケース4】
内縁(事実婚)の相手がいる場合

内縁とは、婚姻届が出されていないもののお互いに婚姻の意思があり、社会的にも夫婦生活の実態のある男女の関係を言います。

内縁の相手でも法的に保護されることも多くなってきましたが、相続権については一切認められていません。

内縁といえど愛した人に変わりはないはずですので、③同様に遺贈をする配慮が必要かもしれません。

【ケース5】
後継者が決まっている場合

個人事業主の場合、事業用資産であっても相続の対象となります。

相続人が複数の場合は、その財産が散逸してしまい、事業の継続が困難になってしまうことも少なくありません。

後継者だけに事業用資産を相続させたい場合、まずは事業用資産と純粋な個人資産とに分けて遺言をするべきです。(家業が農業の場合も同様の考え方)

【ケース6】
相続人になる人が誰もいない場合

相続人になる人がいない場合、特別な事情のない限り遺産は「国のモノ」になってしまいます。

お世話になった人に財産を分けたい,特定の団体に寄付したいと考えているようであれば、その旨を遺言で明らかにしておく必要があります。


【ケース7】
相続人ごとに取得する財産を決めておきたい場合

「妻には○〇銀行の預金」「長男には△△株式会社の株式」など、特定の者に特定の財産を相続させたい場合には、遺言で遺産分割の指定をしておきましょう。

特に土地や建物ついて遺言をしておくことで、それ以外の遺産について相続人間での分割がスムーズに進むことがあります。

【ケース8】
特に心配な家族がいる場合

例えば、障害のある子、介護が必要な妻、病気の孫など今後も心配な相続人がいる場合には、その人に適した遺産を与え、多くの財産を残してやりたいと思うものです。

彼らの生活を支え続けられるような遺言をする必要があります。


遺言の方式(やり方)


法的な効果のある遺言をしたいのであれば、民法に定めらた方式(やり方)に従わなければなりません。普通方式と特別方式を合わせ全7種類ありますが、自筆証書遺言と公正証書遺言については、別ページで改めて説明いたします。

普通方式のイメージ …

元気なうちに将来をじっくり考えたいとき のやり方

 

特別方式のイメージ …

病気や遭難などで死が迫っているとき のやり方

※普通方式の遺言ができるようになった時から遺言者が6ヶ月生存するときは、特別方式での遺言は無効になる

※検認 … 言書の存在や遺言者本人の作成したものかどうかを家庭裁判所が確認する手続き(遺言が有効かどうか、その内容が正しいかどうかを判断するものではない)


ちなみに、いくら仲の良い夫婦や親子であっても2人以上の者が同じ書面に遺言をすることはできませんので注意してください。

また、未成年者の場合、子の代わりに親が遺言書を作成するということはできませんが、15歳以上であれば一人で問題なく遺言ができます。

自筆証書遺言


遺言者自らが「全文」「日付」「氏名」を手書きし、押印します。あとは、手元に置いておけばよく、その他に何ら手続きを必要としません。

しかし、この自筆証書遺言にはデメリット(欠点)も数多くありますので、より安全な方式である公正証書遺言を検討されてはいかがでしょう。

メリット(利点)

  • いつでも誰にでもできる
  • 費用がかからない
  • 遺言書の作成を秘密にできる

デメリット(欠点)

  • 文字の書けない者は作成できない
  • 偽造や破棄される危険性がある
  • 紛失する恐れがある
  • 方式の不備で無効となりやすい
  • 内容が不明確な場合が多い 
  • 遺言の開封や執行には検認の手続きが必要

※検認 … 家庭裁判所が遺言書の存在や遺言者本人の作成したものかどうかをチェックするもの(遺言の保管者や発見者は、検認の請求をしなければならない)


公正証書遺言


公正証書によって遺言をするには、通常何度か公証役場へ出向き、どのような遺言をしたいのかを公証人に伝えます。

その後、公証人がその内容を文書で作成し、そこへ遺言者・証人(2名以上)・公証人が揃って署名・押印することでやっと完成します。

なお、完成した遺言の原本は、公証役場が保管しますので、偽造や紛失の心配はありません。自筆証書遺言に比べて費用はかかりますが、最も安全な遺言の方式(やり方)です。

メリット(利点)

  • 字の書けない者などでも対応してくれる
  • 偽造、破棄、紛失の危険性はない
  • 方式不備により無効になることはない
  • 病気等の場合は公証人が出張してくれる
  • 遺言の開封・執行に検認の手続きがいらない

※ 検認 … 家庭裁判所が遺言書の存在や遺言者本人の作成したものかどうかをチェックするもの

デメリット(欠点)

  • 費用がかかる
  • 手続きが厳格で手間がかかる
  • 証人に適した者を探す必要がある

公証人に対して「法律的にどんな効力を望んでいるのか」「自分がどんな思いで遺言をするのか」などの遺言の内容を詳細かつ正確に伝えることは簡単なことではないかもしれません。

また、必要書類の取り寄せ、公証人との打合せ、証人の手配などの事前準備は自分自身で行わなければなりません。

 


みそらでは、遺言内容(文案)の作成や遺言に関する手続きの代理などを通し、お客様の思いを遺言の形にするお手伝いをしています。