相続に役立つ知識2

公正証書遺言


公正証書によって遺言をするには、通常何度か公証役場へ出向き、どのような遺言をしたいのかを公証人に伝えます。

その後、公証人がその内容を文書で作成し、そこへ遺言者・証人(2名以上)・公証人が揃って署名・押印することでやっと完成します。

なお、完成した遺言の原本は、公証役場が保管しますので、偽造や紛失の心配はありません。自筆証書遺言に比べて費用はかかりますが、最も安全な遺言の方式(やり方)です。

メリット(利点)

  • 字の書けない者などでも対応してくれる
  • 偽造、破棄、紛失の危険性はない
  • 方式不備により無効になることはない
  • 病気等の場合は公証人が出張してくれる
  • 遺言の開封・執行に検認の手続きがいらない

※ 検認 … 家庭裁判所が遺言書の存在や遺言者本人の作成したものかどうかをチェックするもの

デメリット(欠点)

  • 費用がかかる
  • 手続きが厳格で手間がかかる
  • 証人に適した者を探す必要がある

公証人に対して「法律的にどんな効力を望んでいるのか」「自分がどんな思いで遺言をするのか」などの遺言の内容を詳細かつ正確に伝えることは簡単なことではないかもしれません。

また、必要書類の取り寄せ、公証人との打合せ、証人の手配などの事前準備は自分自身で行わなければなりません。

 


みそらでは、遺言内容(文案)の作成や遺言に関する手続きの代理などを通し、お客様の思いを遺言の形にするお手伝いをしています。

遺言でできること


遺言によってできること、つまり、民法の方式に従った遺言で法的な効果をもたらす事項は下記のものに限定されています。少し難しい内容ですので、こちらでは概要のみを説明しています。

 

ところで、いざ遺言を残そうと決意したとき、あなたは法律的な権利や義務だけを考えて遺言書を作成するでしょうか?通常は「家族に対する思い」や「遺言をするに至った心境」などを背景にペンをとるはずです。

相続人の対立を生むような文言や曖昧な表現を避け、家族へのメッセージ や 遺言をする動機なども併せて記しておくことが、私たちが最後にできる家族への愛情表現ではないでしょうか。

1. 相続に関すること

① 推定相続人の廃除
(民法893・894条②)

自分に対して虐待を行った者などをあらかじめ相続人から除くことができる。また一度排除した相続人に再び相続権を与えることもできる。

②相続分の指定
(民法902条)

法律が定めた割合(法定相続分)で相続するのが原則だが、これとは異なる相続割合を指定することができる。また、その指定を第三者に委託することもできる。

③ 特別受益者の相続分の例外
(民法903条③)

相続人のうち亡くなった者から生前贈与や遺贈を受けていた者(特別受益者)は、自分の相続分の中からその生前贈与などで受け取った額を引いた残りを相続するのが原則だが、例外的に生前贈与などは考慮に入れずに相続ができる。


④ 遺産分割の方法の指定
(民法908条)

通常、相続人のうち具体的に誰がどの遺産を取得するかは、分割割協議をして決定するが、遺言によってあらかじめ「妻には○○」「長男には△△」「次男には××」などという指定ができる。また、その指定を第三者に委託することもできる。

 

⑤ 遺産分割の禁止
(民法908条)

遺産を相続人の共同所有のままにするため、分割を5年まで禁止することができる。

⑥ 共同相続人の担保責任の定め
(民法914条)

例えば、遺産分割よって取得した土地の坪数が足りなかったり、取得した貸金債権が実際には回収できなかったりした場合には、他の相続人との間で不公平が生じる。

その不公平を調整するために、原則としてお互い相続人は相続の割合に応じて責任を負うが、例外としてその責任を減軽または加重できる。遺産分割の結果、相続人の負う責任の例外を定める。


⑦ 遺贈の遺留分減殺の割合の例外
(民法1034条)

相続人に保障されている相続財産の一定の割合を遺留分という。

亡くなった者が生前贈与や遺言による贈与(遺贈)をしたために遺留分を下回る結果となった相続人は財産を取得した者に対し遺留分減殺請求をすることで生前贈与などの効力を消滅させることができる。

遺贈がいくつかあった場合は、その物の価額の割合に応じて減殺するのが原則だが、例外として減殺の順序や割合について決めておくことができる。

 


2. 遺産の処分に関すること

① 遺贈
(民法964条)

遺言によって財産を贈ることができる。

「遺産の全部を…」「遺産の3分の1を…」といった抽象的な割合を示した遺贈のことを『包括遺贈』といい、「○○の土地を…」「○○に対する債権を…」など特定の者や権利を目的とする包括遺贈以外のものを『特定遺贈』という。

② 信託の設定
(信託法2条)

いわゆる遺言信託と言われているもので、たとえば妻子や障害者など特定の人 (受益者)の生活安定のために遺言者(委託者)が財産を信託銀行など(受託者)に信託しそれを管理・運用してもらい得られた成果を受益者に交付させることができる。


3. 身分に関すること


① 認知
(民法781条)

法律上の婚姻関係のない男女の間に生まれた子どもとその父親との親子関係を発生させる制度を認知という。

認知によりその子は、当然に相続人となる。 

② 未成年後見人の指定
(民法839条①)

最後に親権を行う者(早くに妻を亡くし幼い子供を1人で育てている夫等)は未成年後見人を指定することができる。

未成年後見人とは親権者と同じ権利義務を有するもので、子のために監護養育、財産管理、契約等の法律行為などを行う。

③ 未成年後見監督人の指定
(民法848条)

最後に親権を行う者は、未成年後見監督人を指定することができる。

未成年後見監督人とは、文字通り未成年後見人を監督する者をいう。子の権利義務に大きく影響する行為について未成年後見人が同意や代理をする場合、前提として後見監督人の同意が必要とされている。


その他


① 遺言執行者の指定
(民法1006条)

相続人の代理人となって遺言の内容を実現する遺言執行者を指定することができる。

また、その指定を第三者に委託することもできる。

遺言執行者は、相続財産の管理や遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務がある。

② 祖先の祭祀主宰者の指定
(民法897条)

家系図、仏壇、墓などの財産を引き継ぎ、祖先をまつる者を指定することができる。


遺留分とは


生前贈与でも遺言でも、自分の財産を誰に何を取得させるかは、原則として自由に決定できます。そこで、『全財産を妻に相続させる』という遺言ももちろん可能となります。

 

しかし、このような極端な財産の処分を無制限に認めてしまうと、遺産を取得できなかった他の相続人が困窮し、生活できない状況になってしまうということも考えられます。

 

そこで、民法は相続人が必ず取得できる遺産の割合 = 最低限の取り分を定めることにしました。これを遺留分といいます。算定方法は複雑ですので、ここでは省略します。

 

ところで、遺留分を侵害する生前贈与や遺言は当然無効となるわけでなく、期限内に主張(減殺請求)した場合に限って、遺留分を確保できるという仕組みになっています。

 

このように遺留分は、相続人同士のトラブルの火種になりがちですが、遺留分に食い込むような遺言が常に悪いと言っているわけではありません。

 

様々な事情により遺留分を侵害してしまう場合は、相続人が納得するような理由や自分の素直な思いなどを遺言に付記しておくことで、遺産争いを防ぐことができるでしょう。