このところ、後継者不在による事業の譲渡によって必要となる許認可の業務に多く携わるようになりました。今回はこの「事業の譲渡」についてコラムを書かせていただきました。
突然の入院、そして…
私の義父は、東京の郊外で個人の保険代理店を営んでいました。高齢からのスタートながら順調に成績を伸ばし、開業10年ほどで契約1200件、顧客500名ほどになっていたそうです。
ところが6年ほど前に体調を崩し、入院することになりました。直ぐに回復して仕事に復帰するつもりが、病状が悪化し、半年後そのまま帰らぬ人となってしまいました。
入院していた間も、お客様からは保険金の支払、契約内容の変更など様々な連絡が義父の携帯電話にかかってきます。保険業界は顧客情報の管理について厳格であり、手元のパソコンからシステムにログインすることで自社の顧客の情報をまとめて確認できる仕組みになっています。
しかし義母はそもそもパソコンの操作が不得手で顧客情報を迅速にチェックすることができません。看病の傍ら、分からないことはその都度、保険会社の社員に相談しながら、時間を掛けて、1件ずつお客様に対応をせざるを得ませんでした。
肝心のことが聞けない
情報管理システムが整っているとしても、保険会社の社員では義母に教えられないことがあります。
それまで義父がお客様との間でつみ重ねてきたコミュニケーションの内容です。「こんな要望や悩みがあった」等の情報がどこにも記録されておらず、こればかりは義父の頭の中にしかありませんでした。
しかし満足に手足や口を動かすこともできない本人からは教えてもらうことができません。結局、連絡を頂いたお客様に対してだけ、おそるおそる対応をするだけになってしまったのです。
以前は夫婦で店舗を営んでいたこともあり、義母も接客や営業トークについては習熟していましたが、こちらからお客様に対して積極的に連絡を取るだけの情報を持ち合わせていなかったのです。
入院後、代理店の権利は義母が、今は義姉が継承ましたが、そんなこともあり、契約件数はこの6年間でかなり減少をしてしまったようです。
鰻屋のタレ
義母にとって知りたかった肝心の情報は、お客様の要望や悩みでした。言い換えれば商売のタネ(重要な経営資源)ですが、これは企業によって様々であると思います。
鰻屋さんは「火事のときはタレの入った甕をもって逃げる」という話をききます。たとえ店を失っても、料理人とタレが無事ならお店が復活できるし、またタレの風味は長い年月を掛けて作り上げてきたもので、代用が効かないということなのでしょう。
あらためて自社にとっての商売のタネが何であるかを見直し、整理してみることで、事業を承継していくための新しいアイデアが閃くかもしれません。
また火事や天災等に備えて保存・補強をしておくことが、万が一のときに事業をいち早く立ち直らせる原動力となり得ます。
皆さまにとっての「鰻屋のタレ」は何でしょうか?
コメントをお書きください