まず、配偶者居住権とは、残された配偶者が亡くなった夫又は妻の建物に住んでいて、一定の要件を充たすときに、亡くなった後も賃料の負担をせずに住み続けることができる権利です。
配偶者居住権は、遺産分割協議などの方法で取得することが出来ます。亡くなった夫又は妻の建物をそのまま相続すると(所有権を取得すると)、遺産分割のときに預貯金等の現金を相続する分が少なくなってしまいます。老後の現金資金は必要です。もしかしたら、不動産の価値が高くて自分の預貯金から支払いをしないといけないかもしれません(これを「代償金を支払う」と言います)。
(※姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置」も考慮しておくと安心です)。
これだけ聞くと、すぐにでも採用したくなる権利ですが、少し立ち止まって、リスクについて考えてみましょう。老後もずっとその家に住み続ける気持ちでいたとしても、将来何があるか分かりません。例えば、10年後に不動産の売却をしようと思ったが出来ないケースです。
配偶者居住権は、「住み続ける期間」を「定める(決める)」ことができますが、「定めないこと」もできます。お父さんが亡くなり、お母さんが住み続けた実家の配偶者居住権を取得。息子がその実家の所有権を取得した場合で、「住み続ける期間を定めなかった」場合を考えてみましょう。
配偶者居住権の権利を持ったままお母さんが認知症になり、お母さんは老人ホームへ入所。実家に住む人が居なくなった後、息子が実家を売ろうと思っても「配偶者居住権」が付いたままの実家は売れないことになります(実際に住むことが出来ないため買い手がいません)。
お母さんが配偶者居住権を放棄すればよいのですが、認知症となった後では放棄はより難しく、可能となった場合も大変な手続きとなります。今般、誰にでも認知症のリスクがあります。
先ほどの例のような問題は、将来、実家に息子が戻って一緒に暮らす計画があるならば考慮しなくても良いことになります。新しい制度が施行されたことをきっかけに、ご両親の老後、自分の老後について考えるきっかけにしていただきたいと思います。