「やりたいことが見つからない」
そんな悩みを抱えながら学生時代を過ごした一人の男性が、紆余曲折を経て行政書士として独立し、今では建設業を支える専門家として活躍しています。本記事では、親の期待に応えた学生時代、燃え尽きてしまった大学生活、資格に逃げた20代、そして30歳での再挑戦というリアルな経験をもとに、行政書士という仕事の実態とやりがい、向いている人の特徴、若い世代へのメッセージを語っていただきました。
この記事は約6,500字(所要時間13分~22分)ほどの記事になっています。
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「親の期待に応えたい」
――まずは学生時代のお話から聞かせてください。どんな学生でしたか?
今振り返ると、「自分がどうしたいか」をあまり考えていない学生でしたね。
長男だったこともあって、親の期待に応えたいという気持ちが強かったと思います。特になりたい職業はなかったと思います。勉強でもスポーツでも、その時やっていることはそれなりに一生懸命やって成績を残す。ただその反動で、高校を卒業したときに自分の中で全て終わってしまった感覚になってしまいました。それは、親が「現役で大学に入った」とすごく喜んでくれたからで、その姿を見たときに、「あ、自分の役目はここまでだったのかな」って燃え尽きてしまいました。
「何も決められなかった大学時代」
――大学生活はどんな感じでしたか?
結局、自分でやりたいことがなかったので、大学生活は本当に暗黒なものになってしまいました。正直に言うと、何もしたいことがなく、途中までは自堕落な生活をしていました。やりたいことが見つからないまま、時間だけが過ぎていく感じでしたね。そんな生活をしていたので周りの友人たちがリクルートスーツを着て動き回っている中で、4年生になっても自分は単位を落とさないように必死でした。4年の最後まで大学に通って、本当にギリギリで卒業したみたいな感じでした。
「資格取得は、正直“逃げ”だった」
今だから言えますけど、逃げだったと思います。「資格を取る」と言えば、とりあえず将来の話を先延ばしにできる。親も納得してくれるだろう、という気持ちはありました。
司法書士を目指して、3年の途中から予備校に通わせてもらいました。1年半ほどそれなりに勉強はしましたが、結果は出ませんでした。その試験が卒業した年の夏だったのでその流れで地元へ戻りました。そして、就職先を探し始めました。
「大学卒業後、偶然入った事務所でやりがいを感じる」
司法書士の試験に落ち、司法書士の資格は諦めていました。本当に偶然、地元の袋井で司法書士事務所の求人を見つけて、「とにかく就職しないと」という気持ちで入所させてもらいました。そこは、司法書士・土地家屋調査士・行政書士が一緒になった事務所でした。
最初は資格勉強もしていたこともあり、司法書士志望だったのですが、半年くらいで飽きてしまっていました。その事務所は人の出入りが多い事務所だったこともあって、気付けば土地家屋調査士の仕事を手伝ったり、行政書士業務も兼ねるようになっていました。そういった環境の中で上の人も独立したりしていって、自分が上の立場になり、最終的には、気づけば事務所の業務全体を担当していました。それはそれで、それなりのやりがいを感じていました。
――具体的にはどんなことでやりがいを感じた?
農地転用の業務ですかね。「この畑に家を建てたい」といった要望から、農地の転用をして、家が建ってそこに依頼者が住むまでの全体的な流れを把握できるようになって。それがなんとなく面白いなと感じて、行政書士の仕事もいいなと実感しました。
「30歳、「このままじゃまずい」行政書士への道」
――行政書士を本気で目指したのはいつ頃?
結局、何の資格も取ることができず、その事務所で働き7年が過ぎてしまっていました。ちょうどその時が30歳で「このまま行くのは流石にまずいな」と思い、巻き返しの意味も含め一番挑戦しやすい行政書士の試験勉強を2002年の春から勉強を始めて、同年10月の行政書士試験に挑戦しました。もう後はない。まさに背水の陣でした。そして、合格が分かってからは、開業の本などを読み漁り、行政書士ってこんなこともできるのかと面白さを感じていました。それまでは農地転用しかやってこなかったものだから本を読み漁る中で、相続関係や開業関係などその他にもできる業務ができることを知りました。その時は、特に何の分野を専門にしていくかは考えていませんでした。最初は色々やってみたいというのがモチベーションでした。
色々試してみた結果、最初に軌道に乗ったのがこれまで経験したことがあった農地転用でした。恐らく、前の事務所での予備知識や経験から、依頼者がどうして欲しいかが理解できたから、うまくいったのだと思います。そうした経験や状況などから建設業に特化しようと意識し始めたのは10年程前で、実際に特化したのは、5年程前のことです。
「独立は不安だらけ。でも50点からのスタート」
――独立するとき、不安はありましたか?
不安しかなかったですね。独立したから仕事を貰えるわけでもなく、ゼロからのスタートでした。この先どうなってしまうかとか、どうやって仕事を獲得していくとか、不安だらけでした。でも、やってみて気付いたことがあります。それは、前に勤めていた所長の口癖だった「俺たちの仕事は50点からスタートしている」の意味が、独立してからよくわかりました。「行政書士」という肩書きがあるだけで話を聞いてもらえるし、信用もしてもらえる。自分の力だけじゃなくて、先人たちが積み上げてきた土台の上に立っているんですよね。例えば、ラーメン屋の場合、のれんわけでもしない限り、知名度はゼロなわけで、本当に興味を持った人しか来ない。完全にゼロからのスタート。でも行政書士などの士業は、行政書士っていうだけで全国統一ののれん分けをしてもらっているようなもので、もともと土俵があって、そこで仕事をしているようなもの。だから、ラーメン屋とか他の独立に比べたら比較的ハードルは低いかもしれないですね。独立したからこそ、当時所長が言っていたことが今はすごくわかります。
「行政書士という働き方」
――行政書士ってどんなイメージだと思いますか?
近所の人など一般の人は行政書士として認識して接している人は、少ないと思います。そういった人からすると私は、何か難しくて面倒な手続きをしてくれる人という認識だと思います。
――この業界にはどんな人が多い?
3パターンぐらいあると思います。1つ目は、私自身もそうですけど、普通に就職できなかった人。2つ目は、セカンドキャリアの人。特に、女性が子育てを終えてもう一度自分のキャリアを築きたいって入ってくるパターン。男性でもある程度会社勤めをしてから脱サラしてとか定年後に始めるパターンもあると思います。3つ目は、少数派であるけど、新卒で行政書士を目指して入ってくるパターンですかね。
――この業界の雰囲気は?経歴は関係ない
セカンドキャリアの人達と話しているとよく感じるのだけど、この業界の雰囲気は、その人の背景みたいなのは結構何でもよくて、すっと受け入れられる雰囲気はあると感じます。例えば、親しくしている女性の人なんかは、10代で出産して全く社会人経験はない人だけれど、今はバリバリ仕事をしている。だから、キャリアを積み上げていった先でなければできない仕事ではなくて、どんな人でも、その人の人間性さえあればできるのが行政書士だと思います。
――どんな人が向いていると思いますか?
行政書士に限らずどんな仕事でもどんな商売でもだけど、相手から何を求められているかを察知して行動できる人だと思う。相手っていうのは立場によって変わる。例えば、経営者が相手の時と上司の時とでは求められてくるものは違うと思う。だから、どんな業界でも相手の求めることを考えられたり、察して行動することができる人は、仕事が軌道に乗っていくと思います。
――この仕事でお金以外に得られるものは?
臨機応変に対応する力が身に付くことだと思います。具体的なスキルや知識は相手の求めに応じて習得していく感じではあるけれど、それがお金以外で得られるものかと思います。
――行政書士の魅力は?
普通かもしれないけど、お客さんが知らないこととか不安なことを教えてあげることで、感謝されることかな。面白みとしては、行政書士の業務って本当に幅広いから奥が結構深くて、色々な分野で調べようと思ったらいくらでも調べられることはある。建設業に絞ろうと思ってからは、自分は建設業に詳しい人ですっていうのをセルフプロデュースして、自分を磨き上げていく面白みはあると思います。
――この仕事の大変さ・難しさは?
他の仕事と比べて、特にはないと思う。建設業者さんと関わることが多いけれど、よっぽどそういった人達の方が大変だと思う。それ踏まえると自分達の仕事は楽だなと感じます。
――特に印象に残っている仕事は?
やっぱり、初めてした仕事が印象に残っています。それは、車の廃車登録の手続きでした。今でも買っているモータースさんの依頼で、そのモータースさんに開業の挨拶に行った時に、廃車の登録もしてもらえますかみたいな感じで頂いた仕事でした。手続き的はすごく簡単なものだけれど、受託した案件を記録する事件簿に、受託第一号の記録をしたときは印象に残っています。他にも、書類には当然自分の名前が入っているし、自分のハンコが押される。それにはとてもドキドキした記憶があります。
――仕事をする上で意識していることは?
もちろん、締め切りがある仕事なので締め切りを守ることは大前提として、お客さんを間違った方向に導かないこと。それと、お客さんの求めるものを先回りして伝えることです。例えば、書類作成もスムーズに進んでいて、問題なく許可が降りる手続きがあった場合、こちらとしては特に焦りやプレッシャーはないけれど、お客さんとしては、手続きは無事に終わるのかといった不安がある。だから、聞かれる前に伝える。個人的には、手続きがどうなっているのかを聞かれたら減点だと思っています。その報告を受けて腹が立つ人はいないし、先手を打って、安心してもらうところまでが仕事だと思っています。
――個人で活動している方が多い業界ですが、なぜ法人化されたのですか?
業界として、多くの人が個人事業だけでいいのかな、という疑問があります。特段、各々がそれぞれの価値観でやっているとしても全く問題はなくて、お客さんとしても問題を感じていないのなら別にそれでいいと思う。でも、組織として仕事ができる業界でないと若い人が入ってこないし、入りづらい。普通の就職先として選ばれる業界にしたい。例えば、お客さんの引き継ぎがうまくいかないとかの弊害もある。この業界は、就職先の1つとして見られることが少ないから普通に就職できる業界したいという想いはあります。
「今後について」
――今後、行政書士に求められてくること
難しいね。どこの会社さんからも求められていることってまちまちだと思う。単純に事務作業ができないとか、やりたくないからやってくださいみたいな従来、行政書士に求められている書類作成などのこと。それはそれで1つの役割で、それにプラスαで、アドバイスというかお客さんをいい方向に導いていくことも大事だと思っています。例えば、その会社さんにプラスの影響を与える手続きがあれば、頼まれていなくても、勧める。お客さんの業界が行政書士界にそういったアドバイスを求めているかと言われると微妙だけれど、ただそれをやってあげるべきだと思っている。法律に関して言えば、上位資格として弁護士がいるけれど、行政書士の方が人数もはるかに多いし、身近な存在ではあるから、手続きをしながらもプラスαで良い経営ができるようにリードというかサポートしていけたらと思います。そうすれば、若い人が入ってきて、その人たちが育って、会社の業績が上がっていくようなサイクルができる。そういった会社が1社でも増えれば良いなと思います。
――今後、「行政書士法人みそら」をどうしていきたいか?
一人ひとりが建設業者さんを助ける力が強くなれば良いと思っています。書類を作るだけではなくて、質問されたことに一生懸命レスポンスよく答えるとかでも良いと思う。実際問題、そういったところが重要だと思う。教えてほしいことをすぐ教えてれあげられる。そういう能力をみんなで向上させていけたらと思っています。あとは、努力する社風というか、自分を成長させて、お客さんへの貢献度を高めることが当たり前の事務所にしていけたらと思います。当然、待遇とか和気あいあいとした雰囲気とかは土台として、同じ方向性として個人個人が成長を志す事務所にしていきたいです。
――理想の人間像は?
自分自身、器が小さいと感じるから器の大きい人になりたいね。特にこの人っていうのはいないのだけど、ただ寛容ってことではなくて、すごく厳しいけれどめちゃめちゃ優しいみたいな。一番良い先生だったなと思う先生って意外と怖いのは怖いけれど、後々優しい時もあったみたいな。おそらく人間的にそういう振り幅が大きい人間が、器が大きい人なのかと思う。寛容であるかというよりは、振り幅が大きいところ。この人魅力的だなって思う人は多かれ少なかれそういった側面は持っていると思います。憧れの気持ちと会社は責任者の器の大きさにしか育たないと思うので、自分の器が大きくならないと会社は大きくならない。だから、そういった意味も含め器の大きな人間になりたいです。
「若い人へ伝えたいこと」
――若いうちにしておくべきことは?
世界中を旅してこいってことかな。どこかを旅するというよりも、旅をするという行為に価値があると思う。放浪の旅でも良いと思うし、そういう面で言えば色々なアルバイトをするとかでも良いと思う。今そうしたことができないというよりは、今してもしょうがないといった意味で、若いうちの旅をすることには後々の人生に大きな価値を与えてくれると思います。
――若者と接する上で意識していることは?
自分の価値観で接しないことかな。育っている時代も変われば環境が違うのも当たり前。だから、そのギャップを受け入れて活かしていくことが重要だと感じています。やはり、自分が上の世代になってきてある程度、楽をしていたり、現状維持をすることは退化だと感じます。だから、その退化を遅らせる意味でも若い世代と接することは大事だと思う。どの業界とかどんな会社でも言えることだと思うけど、やっぱり若い人がいるところって活力があって良いと思う。もちろん経験やスキルは少ないかもしれないけれど、若者の持つ活力は、いい影響を与えることを若者は理解しておくと良いかもしれないですね。
――進路に迷っている若い人へ一言お願いします。
大いに迷って良いと思います。迷うことが人生。迷っていないと逆に変じゃないかと。ただ、迷っているだけだと前に進めない。だからアルバイトでも、旅でも、何でも良いから何かしら決めて行動に移す。それが大事だと思います。
「インタビュアーからの一言」
今回のお話を聞いて強く感じたのは、「最初から進む道が決まっていなくても、人はちゃんと仕事に出会える」ということでした。学生時代はやりたいことが見つからず、大学生活も決して順風満帆とは言えなかった。資格取得も、本人の言葉を借りれば「逃げ」だったという。それでも、偶然入った事務所で行政書士の仕事を知り、「誰かの生活が動く瞬間」に携わることにやりがいを見出していく姿が印象的でした。
特に心に残ったのは、「行政書士は50点からスタートしている」という言葉です。
完璧でなくても、肩書きや役割を通じて社会とつながれる。その事実は、将来に不安を感じている若い世代にとって、大きな救いになるのではないだろうかと思いました。
迷うのは当然。迷い、遠回りしながらも、自分なりの場所を見つけていく。
このインタビューは、「今、答えが出ていなくても大丈夫だ」と、そっと背中を押してくれる内容でした。






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