建設業の多能工育成と建設キャリアアップシステム上の能力評価制度の期待

 

公共施設や民間企業の設備工事を手掛けるお客様から、建設キャリアアップシステム(CCUS)登録のご依頼をいただいて入力作業を進めていますが、社長様と打ち合わせをしていて疑問が生じました。

 

従業員様の技能者登録をする際に職種を決めていくのですが、システム上では主たる職種の他に、複数の従たる職種も選択をすることができます。

 

今回は主たる職種は「電工--電気工」なのですが、他にも「電工--電気通信工」「電工--受変電設備工」「配管工--配管工」「特殊作業員--あと施工アンカー工」など実際にはひとりで様々な工事を手掛けることができる方がいらっしゃるため、どのように登録すれば不利ではなくなるのか、あるいは将来的に有利になるのか、というような疑問です。

 

建設キャリアアップシステムに登録された現場における就業履歴は、現場に設置されたカードリーダの読み込み等で技能者の就業履歴が自動的に蓄積されていき ます。また、技能者本人、技能者が所属する事業者による建設キャリアアップシステムへの就業履歴情報の直接入力も可能です。

 

ここで注意したいのが職種の設定です。

現場ごとの施工体制作業員登録をされた内容で運用されますが、技能者それぞれに登録した主たる職種で就業履歴が蓄積されていくので、もし従たる職種での就業履歴を蓄積したい現場がある場合には、システムにログインして修正の入力作業が必要になってきます。

 

システムではこれを就業履歴デフォルトと呼んでいます。以下はその説明文です。

 

建設キャリアアップシステム「現場運用マニュアル」より抜粋

「就業履歴デフォルト」とは、技能者情報の新規登録の際に設定した情報(職種等)や、施工体制の登録の際に設定した 情報(立場や作業内容等)が組み合わされた情報です。 就業履歴を蓄積する現場が変わる場合や立場・作業内容等を切り替える場合、施工体制登録を再度設定することによって、 「デフォルト内容」を変更することができます。ただし、職種は技能者登録時のままです。 例えば、通常は「型枠工」として従事している技能者が、ある日だけ「鉄筋工」として従事する場合、就業履歴デフォ ルト上は、「型枠工」として登録されている職種で就業履歴が蓄積されますが、その日だけ直接入力することにより、 後日「鉄筋工」に変更することができます。この場合、就業履歴デフォルト上は「型枠工」のままです。

 

就業日以降にシステムにログインして職種・立場・作業内容などを変更できるのには期限があります。修正内容は元請による承認が必要なのですが、就業日から数えて翌月末までが入力および承認の期間とされています。

「あとで時間がある時にまとめて」という訳にはいかないのが難しいところです。

 

建設キャリアアップシステム登録と就業履歴の蓄積が、日々の職務を反映していないと、将来、技能者にとって公正な能力判定に繋がらないリスクが生じます。このリスクを低減するには、元請と技能者の所属企業がそのつどマンパワーで確認・修正を続けていかなければなりません。

 

そこで期待されるのが、多能工の能力評価制度です。国土交通省はこの課題の解決に向けて検討をしているようです。

 

労働開発研究会HPより引用

国土交通省は、建設技能者の就業履歴や保有資格のデータを蓄積し、業界全体で共有している建設キャリアアップシステム(CCUS)において、複数の職種の業務を横断的に行う「多能工」の能力評価基準を策定する。地方の建設業者では、1つの現場で同時に複数の作業を進める実態がある一方、現行のシステムでは職種ごとに基準が設定されており、多能工を評価する基準はない。地方建設業協会9団体を通じて200社に実態調査を実施し、結果を基に来年度から検討を始める。めざすべきレベル別年収についても、職種とは別に設定するとしている。(労働新聞社2023.10.30)

 

建設業許可や経審で携わっていても、お客様が多能工を育て実際に現場で活躍されていることを見落としてしまっているのだな、と今回の相談で気づかされ、反省をしました。

 

多能工のメリット(国土交通省「マルチクラフターを育成しよう!」参照)

・工種の入れ替えがないことによる工期の短縮、手戻りの縮小、コスト縮減ができる

・人材の有効活用による繁閑調整、受注機会の拡大ができる

・一連の工事で同一の者(適切な能力と資格を有する者)を配置できることによる品質の向上、法令順守の徹底  

 施主・元請けからの信頼の向上、業務改善範囲の拡大ができる

 

あらためて振り返ると、地域における競争力があり、経営が安定していることと、多能工を育成していることとはおそらく比例する関係であるのではないかと思います。

CCUSにおいても、多能工の評価をする仕組みができることに期待します。