特定建設業許可を取るための財務要件とは

 

一般建設業の許可で営業されているお客様から「新規の案件を見積もりしたら5,000万円以上になってしまう、

当社でも元請で受注して構わないか?」というご相談を受けることが最近おおくなったように感じます。

 

材料費や人件費の高騰が続いていること、事業用建物の修繕などBtoBの工事が比較的、需要が強いこと等が背景にあり、

上手く営業に入りこめると、それまでのよりステップアップした規模の引き合いが来るのだと思います。

 

改めて、「一般建設業許可での受注を禁止されている」条件を見直したいと思います。

 

1.発注者から直接受注している(自社が元請である)

2.協力業者との下請契約金額の合計が税込みで5,000万円以上(建築一式工事は8,000万円以上)になる

 

以上の2つの条件に当てはまる場合には、あらかじめ特定建設業の許可が必要になります。

もう少し具体的には、引き合いがあった際は次の注意点を踏まえて「受注できるかどうか?」を検討してください。

 

1.発注者からの受注金額ではなく、下請負契約の金額で判断される

2.複数の業者と下請け契約する場合には、その合計額で判断される

3.材料を元請業者から下請業者に支給した場合にはその材料費を上限の金額から除外できる

 

元請で金額が大きいということは、複数の業種が関わることが多いと思います。

自社で施工チームを抱えていても、材料を支給しても、下請負金額がオーバーしてしまう案件が増えるでしょう。

これからそういう案件が増えそうであれば、特定建設業許可の取得ができるよう、社内の体制を整えていただきたいです。

 

「よし、特定建設業許可を目指そう。」

 

となりましたら、まずは特定建設業許可を取るための重要な条件のひとつ「財務要件」を整えられるよう、

日々の経営をしていっていただく必要があります。

なお財務要件のほかに重要な条件は、有資格者の確保、法令順守の体制づくり、と考えています。

 

有資格者の確保については、一級施工管理技士の制度がある業種は社内で技術検定に合格するか、

資格を持つ方を常勤社員として採用していただきます。

 

技術検定の種類や試験日程などについては、こちらの別ページを是非ご覧になってください。

 

ところで施工管理技士の制度がない業種の問題があります。

例えば機械器具設置工事業の管理技術者は従来は「実務経験」という非常にハードルが高いものでした。

この問題ついては、法改正により一級の建築、菅または電気工事の施工管理に合格してから、

実務経験3年を積むことで条件を満たせる道が新たに設けられました。

 

機械器具設置工事業の技術者をはじめ、技術検定の緩和に関する解説は、

こちらの別ページを是非ご覧になってください。

 

特定建設業のご説明をするときに、私は自動車運転免許の普通と大型をたとえ話にすることがあります。

軽自動車より大型ダンプのほうが運転操作が難しいことは、運転免許のない人でも想像がつくと思います。

 

技術的に難しい工事になるからより難易度が高い資格が必要、という理屈は分かりやすいですよね。 

 

 さて本題の財務要件に話を戻します。

本当は財務要件は4つありますが、わかりやすくするために3つ挙げてご説明します。

残りのひとつは欠損額に関するものですが、下記3点を満たしていれば気にする必要が少ない項目だからです。

財務要件を判断するための数字は、直前決算期の貸借対照表の内容です。

 

1.流動比率が75%以上ある

  流動比率は、流動資産額を流動負債額で割った比率(流動資産÷流動負債×100)です。

 

2.純資産額が4,000万円以上ある

  純資産額は会社を設立してからこれまで蓄積された利益の金額です。

 

3.資本金が2,000万円以上ある

  資本金は純資産額のなかでも登記されている額面上の資本金額です。

 

 

1.流動比率

流動資産は、現金に近い資産で預貯金のほか受取手形、売掛金(完成工事未収入金)などです。

貸借対照表の左上に記載されています。

流動負債は、1年以内に支払期限がくる債務で、短期借入金、買掛金(工事未払金)などです。

貸借対照表の右上に記載されています。

 

このふたつの数字を割り算をして0.75以上になっていればOKということになります。

簡単に言えば、手元のお金でその気になればいつでも払えますよ、という力を確認している訳ですね。

 

流動負債の計算には長期借入金(1年以内に返済期限がこない)を入れる必要はありません。

借り入れが必要になる場合にはなるべく長期で、短期になる場合には決算日より1日でもよいので前に

短期借入金をなるべく返済していただくことも対策のひとつになります。

 

2.純資産額

純資産は会社を設立後これまでに蓄積された利益の総額です。

貸借対照表の右下に記載されています。

 

ある年に税引き後の利益が500万円出たとしたら、前の年の純資産額にプラス500万円されます。

逆に赤字で500万円の損失が出たとしたら、前の年の純資産額からマイナス500万されます。

毎年の変動の結果は繰越利益剰余金として記載されています。

 

これに設立の際の資本金などを合計した総額が純資産額になります。

積みあがった金額が4000万円に達すると条件を満たすことになります。

 

4000万円と現在との差額を、平均的な1年間の純利益額で割っていただくと、あと何年かかるのか?

だいたいの見当がつくと思います。

 

「期末では●●●万円ぐらい利益が出そうです。」

税理士さんからそう告げられると、何とかして利益を減らすよう考えることも多いと思います。

 

でもその行為は、純資産額を目標まで上げることとは逆行することになります。

つまり税金を多く払う覚悟がないと、純資産は積みあがっていかない、という仕組みになっています。

 

3.資本金

資本金は株主が会社に出資した金額の総額です。

貸借対照表の右下に記載されています。

設立の時に100万円を出資してそれ以降は何もしていない場合は資本金100万円のままです。

純資産額は毎年の利益または損失に応じて変動しますが、資本金は手続きを踏まない限りは変わりません。

現在100万円だとすると、残り1900万円を増資という手続きで変更する必要があります。

増資には主にふたつの方法があります。

 

1つめは、新株発行です。

 

これは役員や第三者が、会社に対して新しく出資をして会社の口座に払い込むことです。

出資する元手は個人の預金のほか現物出資も認められています。

現物出資として私の経験上ではたまにあるのが、トヨタハイエースなどの高価な車両です。

車両は相場の価格がひろく社会で知られているので、現物出資をし易いとされています。

 

2つめは、繰越利益の資本への組み入れです。

 

貸借対照表の右下に、純資産の説明で出てきた繰越利益剰余金という項目があります、

たとえば純資産が4000万円で、資本金100万円、繰越利益剰余金3900万円の場合、

剰余金のうち1900万円を資本金に組み入れると、資本金2000万円、剰余金2000万円となり、

純資産の総額は4000万円のままです。

つまり個人が新たに出資をせずに、会社に積みあがった利益を付け替えるだけで済みます。

 

 

いかがでしょうか?

 

ずいぶんお金のことにうるさいんだな、という感想かもしれません。

 

 実は財務要件を厳しくしていることにもしっかりとした理由があるのです。

それは自社の従業員は当然のこと、資材の仕入れ先、外部に協力会社に対する支払を期日通りに

しっかりと実行してもらう重い責任があるからです。 

企業は公の器ともいわれますが、特定建設業許可業者はまさに公の器だと思います。

 

特定の財務要件を満たすには、長期的な視野で目標を立て利益を積み上げる経営が必要です。

あせらず、でも気を抜かずに、一歩ずつ前進していきましょう。